#1391 山陰の旅(8) 国賀荘へ

楽しい時間の過ぎるのはあっという間ですなあ。
摩天崖を後にして本日の宿『国賀荘』へ向かいます。
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なだらかな牧草地帯を走っていると道路脇に馬がおりました。
妻「時間がないところすみませんが、ちょっと下りて馬を撮ってもいいですか?」
運「構いませんとも。でも一つだけ注意してもらうことがあります。」
妻「何でしょう?」
運「馬には決して後ろから近付かないで下さい。蹴飛ばされることがありますから。」
写真を撮り、馬に足蹴にされることもなく、無事車に戻ってこれました。

私「馬に蹴飛ばされることもなく無事戻ってまいりました。」
運「わっはっは~。まあ、馬も牛もおとなしい動物だから滅多にそういうことはないんですけどね。」
私「滅多にないということは、たまにはあるということですか?」
運「はい。実際に蹴飛ばされて怪我をした人が以前いましたからねえ。」
…ああ、後ろから近づくなと聞いておいてよかったわ。
 知らずに後ろから近づいて蹴り飛ばされた挙句、倒れ込んだ所に馬糞が落ちてたら、痛いやら臭いやらで、
 さっぱりワヤや。




 
 
 
運「ちょっとした怪我ならいいんですけどね。」
私「ちょっとしない怪我ならどうなるんですか?」
運「本土まで行かなきゃ病院はありません。」
私「そりゃあ大変や。」
運「うちのお袋が病気になったとき、島では治療できんというので、ヘリコプターに乗って米子の労災病院まで行
  きましたからねえ。」
私「そら大ごとですね。」
運「しかも3回も」
私「3回もへりに乗って米子まで行ったんですか。」
運「はい。病院の先生に『へりに乗って2回やってきた人はあるけれど、3回も来たのはあなたたちだけです』って
  いわれましたわ。」
私「で、おかあさんはどうなりました?」
運「寝たきりですわ。まあ本人もたいへんだろうけど、嫁さんが大変ですわ。お袋より先に参ってしまわんかと心
  配です。」
私「ああ、世界一の長寿国といっても、やっぱり元気で長生きでないとね。」
運「そうですなあ。」

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…しばらく、会話が途切れてしまうが、突然黒いネコが道路を横切った。
運「あ、猫だっ!」
…別にネコなんか珍しくないやん。牛や馬の方がよっぽど珍しいと思うけど…
嫁「わっ、あのネコ、尻尾が短くて太いわ。」
…長崎には尻尾が短くて太いネコが数多く生息しているようですが、ここ隠岐でもそうなのかなぁ?
私「ネコがそんなに珍しいんですか?」
運「いや、ネコそのものは珍しくないんですが、こんな草原にいるのは初めて見たので。野生かなぁ。」
私「そうかも知れませんね。」
運「ネコといえばうちにもネコが3匹いるんですよ。」
私「ああ、ネコがお好きなんですね。」
運「いやあ、特別好きという訳でもないんですけどね。うちの上の人が猫を10匹も飼ってたんですよ。」
私「はあ。」
運「で、その人は一人暮らしでしてね。ある日、亡くなってしまったんですよ。」
私「それで?」
運「最近あまりネコの声がしないなあと様子を見に行ってみると、ネコ同士が共食いをしてましてね。」
私「共食いですか!」
運「そうです。あまりにも惨いので残った3匹に餌を与えたのがキッカケで今はうちにいます。」
私「はあ。」
運「まあ家の中には入れないんですけどね。餌だけは与えてるんですよ。ペットといえるかどうか…。」
私「はあ。」
運「しかし、至れりつくせりだったんでしょうねえ。自分で獲物を獲るというような野生の力はありません。」
私「なるほど。」
運「見るに忍びないので、ウチで餌を与えてるというようなことでして。」
…いかんいかん。また話題が暗くなってしまった。話題を変えねば。

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私「ネコもいるんでしょうけど、やはり馬や牛の方が数は多いんでしょうね。」
運「はい。馬も多いけど牛の方が圧倒的に数が多いです。」
私「ほう。牛の方が圧倒的に多いのには理由がありそうですね。」
運「やはり、生活のためですね。」
私「ふぅん。」
運「ここの牛はメスしかいません。」
私「ホンマですか。」
運「はい。」
私「種付けして、子牛を産むためですか。」
運「はい。ある程度生育した子牛はセリにかけられて他所に売られて行きます。」
私「それで?」
運「この島にはとさつ場はありませんのでね。」
私「…。」
運「動物も育てていれば情ってもんが湧いてきますわな。生活のためとはいえ悲しいものです。」
私「…。」
運「子牛にもそのことがわかるんでしょうかね。売られていくとき、涙を流すんですよ。そりゃもう辛いもんです。」
 運転手さんの目は充血し、うっすらと涙ぐんでる。
運「でも食卓に並んだら食べちゃうんですけどね。」
…な、なんや。この変わり身の早さは。
運「けど、命を布施してもらってるんだからやはり『いただきます』『ごちそうさま』は感謝をこめて言わないといけま
  せん。」
…さっきからクラい話ばっかりやなあ。まあ、そういう話もダメとは言わんけど、パッと明るくなるような話はないん 
  かいな。

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運「牛はメスしかいないんですけどね。人間は男の方が圧倒的に多い。」
私「なんでですか?」
運「島の女性の多くは島外で就職する人がほとんどなんですが、そっちで良い人を見つけて結婚しちゃうからです。」
私「ああ、それで島内には独身男性の数が多いってことですか。」
運「そうです。所帯を持ってないから稼いだ金は使い放題。」
私「ちょっと、羨ましいかも…。」
運「なんの羨ましいことがありますかいな。娯楽というものがないから、島にたった一軒のパチンコ屋は大流行り
  ですわ。」
私「そうなんですか。」
運「競争相手がいないから、出玉率も悪いし、たいてい皆負けるんですけどね、娯楽がないから負けてもまた行く。」
私「嫁さんや子供がいればストップがかかるんでしょうね。」
運「全くその通りですよ。」

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私「この島はやはり漁師さんが多いんですか?」
運「昔は多かったんですけどね。随分と減りました。」
私「重労働がいやだから?」
運「いえ、そういうわけじゃないんです。一時はいくらでも魚が捕れたんですけどね。
  小さい魚介は海に返して、大きくなってからまた捕ればよかったんでしょうけど
  定置網なんかで根こそぎ捕ったものだから、少なくなってしまったんですよ。
  今の若い猟師はかわいそうなもんです。」
私「環境汚染の問題もあるのでは?」
運「まあ、それもあるでしょうけど、やはり根こそぎ捕ってしまうような事をやったツケが
  きてるのが大きな原因だと私は思いますよ。」
私「それでも、フェリーには太公望たちがたくさん乗ってましたけど。」
運「そりゃあ昔に比べたら随分と少なくはなったけど、今でも魚はたくさん釣れますよ。
  ただ漁業だけで生活するにはどうでしょうね。私は昔の猟師たちの羽振りのよさを
  知ってますからねえ。」

運「船がたくさん係留されてるでしょ。」
私「そうですね。」
運「この中には、タダで譲ってもらえる船もありますよ。」
私「タダですか?」
運「ええ。年がいって猟師を退いたけど、そのままになってる船がありますからね。」
私「廃船にしないんですか?」
運「勝手に廃船に出来ないんですよ。廃船にしようと思えば本土まで行って
  手続きをしなけらばなりませんのでね。
  結構、手間も費用もかかる。それなら使ってくれる人があればタダでも
  その人に譲った方がいいってことでしょうかね。」
私「でも船舶免許とか要るんでしょ。」
運「一級船舶免許は実習や受験の費用として十数万円あれば取れますよ。」
私「そんなに簡単には取れないでしょう?」
運「他所では知りませんが、ここの人で試験に落っこちた人なんて聞いたことありません。」
…ホンマかいな。まあ、船がないと島では困ることもあるかも知れないから緩くなってるのかも。
運「定年退職して、この島に移り住んで船をもらって釣り三昧してる人もいますよ。」
私「ははは、悠々自適ですね。まあ、私には釣りの趣味はありませんけど。」
 その一言でこの話はプツンと途切れた。
 あわよくば、私たちをこの島に住まわす算段だったんじゃないかしら??

運「隠岐諸島は流刑の地だってことはご存知ですよね。」
私「はい。知ってます。時代劇なんかでも『その方の罪許しがたし。しかるに本来死罪となるべき
  ではあるが酌量の余地あるによって、隠岐の国に遠島を申し付ける』ってな事を奉行が言うた
  はりますね。」
運「島流しの刑は、律令時代からあったようですよ。」
私「へえ、そんなに古くから。」
運「今までに随分と流刑者がこの島に入り込んでます。著名な人物もおります。」
私「後醍醐天皇とか後鳥羽上皇とかですね。」
運「たくさんの流刑者がこの島に流されて、良かったんですよ。」
私「どうしてですか?」
運「そうでなかったら、血が濃くなりますからね。近親者の結婚はいろいろと弊害があるんですよ。」
私「なるほどね。」
…流刑者の血なんていうと、おっかないように思えますけど、まだここに来て半日ですが、島で出会った
  人たちは全て穏やかで親切な人ばかりでした。
  それはそうと、摩天崖からの風景を見ていると昔あった映画『パピヨン』を思い出します。
  周りにはサメがウヨウヨいる孤島に流刑になったパピヨン(スティーブ・マックイーン)とドガ(ダスティン
  ・ホフマン)。
  島での平穏な暮らしを選択したドガ、死を覚悟で島から脱出するパピヨン。
  脱獄不可能といわれている島の崖の上から飛び込むシーンは摩天崖の景色によく似ていたように
  思います。

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浦郷に近づいてきました。もうすぐ宿に到着です。
運「ここは、イカ寄せの浜っていいます。」
私「イカ寄せの浜?」
運「最近は少なくなりましたが、何故かこの入り江に大量のイカがやってくることがあるんですよ。」
私「何故なんでしょう?」
運「さあ、それはわかりませんけどね。何万匹も流れ着くんです。
  流れ着いたイカは漁業権の及ぶ範囲外なので、誰が拾ってもいいんですよ。」
…この島では、イカは捕るものでも釣るものでもなく拾うものなんやそうです。
 「イカを拾うなんて言われるとちょっとビックリしますよね。」
運「昔、この島の警察官の人が流れ着いたイカをたくさん拾って、それがまた結構なお金になるものだから
  警察官をやめたって人もいますよ。」
そんな話をしていると国賀荘の前まで来てしまったので、タクシーを降りました。
その後、その警官はどうなったのかは聞きそびれてしまいました。

国賀荘に入ると壁にイカ寄せの浜に大量に流れ着いたイカを拾っている人たちの写真が架けてありました。
流れ着いたイカは約2万匹。平成18年2月5日撮影と書かれてあります。
う~ん、写真を見ていると、ここでは、やはりイカは釣ったり捕ったりするものではなく拾うもののようです。

まあ、でもオモシロい運転手さんでした。
「玉木宏さんのおじいさんの家がこの辺りにあります。」なんて言うものだから、当然、映画『私は貝になり
たい』やNHK連続テレビ小説『だんだん』や『太平記』のロケ地という話があるものと思っていたら、そんな
話は一切なし。

フロントでチェックインを済まし、国賀祭りの一環で夕方からのサンセットクルーズの予約ができるなら
予約しておきたい旨を伝えました。
「私どもでは解りかねますので、主催者に聞いて見ます。少々お待ち下さい。」
さて、予約がとれたら部屋でちょっと休憩し、いよいよ摩天崖の全貌を拝みにサンセットクルーズの
はじまりです。
ワクワク。

 -つづく-
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by echoes06 | 2010-04-13 00:02

写真・イラスト・よもやま話


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