一心寺横の茶店の前で旦那さんに声をかける秀。
ちょっと聞いてもらいたい話があるので、立ち話もなんだから、そこの茶店でお茶でも飲みながら私の話を
聞いてもらいたいと、旦那さんを茶店に誘います。
お茶を飲みながら秀の話を聞く旦那さん。
あるスリがいて旦那さんが腰にぶら下げている煙草入れに目をつけて堺筋あたりから様子をうかがって付
いて来たのだが、旦那さんに隙がなくどうも掏れそうにもない。
その様子を見ていた別のスリが旦那さんの煙草入れを掏る権利を一円(江戸時代が終わり元号が明治に
なった頃の噺なので一円は結構大金であったと思われます。)で買って、旦那さんの後をつけてきたのだが
やはり旦那さんに隙がなく擦れそうにない。
別のスリが旦那さんの煙草入れを掏る権利を二円で買ったが、やはり旦那さんに隙がなく掏れそうにない。
そこで名うてのスリである秀が旦那さんの煙草入れを掏る権利を三円で買ったが旦那さんに隙がないので
掏る機会なく、とうとう一心寺の前まで来て声をかけ・・・
「まことに、お恥ずかしい話ですが、旦那さんには隙がなく掏れそうにもありません。そうかといって、仲間に
対して掏れなんだとは言えません。どうか、その煙草入れを売ってもらえんでしょうか?」
隙がないと言われた旦那も悪い気はしません。
「う~ん」と思案する旦那さん。
「その煙草入れ決して安いものやないと思います。けど、道具やへ売りに出しても三円八十銭・・・よくても四
円くらいやと思います。どうでっしゃろ、私に十円で売ってもらえまへんやろか?」
「そんなことしたら、あんさんえらい損でっせ。煙草入れに十円、権利買うのに三円で十三円。」
「わかってま。けどスリ仲間に対してスレなんだとは言えまへんのや。」
結局、お茶代と十円を払って旦那さんの煙草入れを手に入れた秀。
その様子を見ていたスリ仲間から言われます。
「なんじゃい。結局掏れずに金出して買うとるやないか。」
「何を言うてんねん。金は出したけど、その金の入った財布ごと抜いて来ったわ。要は要領や。煙草入れだ
けに目が行くから掏れんのや。」
「ほー、お前すごい奴っちゃなぁ」
などと言っているところに今はスリから足を洗って堅気の生活をしている兄貴分が現れます。
「秀、おまえまだそんなことやってんのか。お前ほどの腕があったら、スリをやめても、なんぼでも働き口は
あるやろ。」
「兄貴、そう言うけどなぁ。ワイはガキの頃から食うや食わずで生きてきてスリがしみついてしまってる男や。
もう、スリから抜けられん。」
「まだ、そんなこと言うか。」
「けど、ワシ貧しい奴からは盗らんで。金の有り余っとる奴か、こんな金持たしとったら世の中のためになら
んちゅうような奴らからしか盗らん。」
「ほぅ、そうか。ほな聞くけど、今朝うちに来たやろ。」
「ああ、行ったで。行ったけど兄貴おらんかったし、すぐに帰ったわ。兄貴とこの貧乏長屋で仕事したりはせ
えへん。」
「そうか。けど長屋の角の駄菓子屋から一文笛盗ったんはお前と違うんか。」
「ああ、あれか。あれは確かにワイや。」
何故、たかが子供のおもちゃの一文笛を盗ったのか・・・
その理由を秀は兄貴に話し始めます。
-つづく-
ちょっと聞いてもらいたい話があるので、立ち話もなんだから、そこの茶店でお茶でも飲みながら私の話を
聞いてもらいたいと、旦那さんを茶店に誘います。
お茶を飲みながら秀の話を聞く旦那さん。
あるスリがいて旦那さんが腰にぶら下げている煙草入れに目をつけて堺筋あたりから様子をうかがって付
いて来たのだが、旦那さんに隙がなくどうも掏れそうにもない。
その様子を見ていた別のスリが旦那さんの煙草入れを掏る権利を一円(江戸時代が終わり元号が明治に
なった頃の噺なので一円は結構大金であったと思われます。)で買って、旦那さんの後をつけてきたのだが
やはり旦那さんに隙がなく擦れそうにない。
別のスリが旦那さんの煙草入れを掏る権利を二円で買ったが、やはり旦那さんに隙がなく掏れそうにない。
そこで名うてのスリである秀が旦那さんの煙草入れを掏る権利を三円で買ったが旦那さんに隙がないので
掏る機会なく、とうとう一心寺の前まで来て声をかけ・・・
「まことに、お恥ずかしい話ですが、旦那さんには隙がなく掏れそうにもありません。そうかといって、仲間に
対して掏れなんだとは言えません。どうか、その煙草入れを売ってもらえんでしょうか?」
隙がないと言われた旦那も悪い気はしません。
「う~ん」と思案する旦那さん。
「その煙草入れ決して安いものやないと思います。けど、道具やへ売りに出しても三円八十銭・・・よくても四
円くらいやと思います。どうでっしゃろ、私に十円で売ってもらえまへんやろか?」
「そんなことしたら、あんさんえらい損でっせ。煙草入れに十円、権利買うのに三円で十三円。」
「わかってま。けどスリ仲間に対してスレなんだとは言えまへんのや。」
結局、お茶代と十円を払って旦那さんの煙草入れを手に入れた秀。
その様子を見ていたスリ仲間から言われます。
「なんじゃい。結局掏れずに金出して買うとるやないか。」
「何を言うてんねん。金は出したけど、その金の入った財布ごと抜いて来ったわ。要は要領や。煙草入れだ
けに目が行くから掏れんのや。」
「ほー、お前すごい奴っちゃなぁ」
などと言っているところに今はスリから足を洗って堅気の生活をしている兄貴分が現れます。
「秀、おまえまだそんなことやってんのか。お前ほどの腕があったら、スリをやめても、なんぼでも働き口は
あるやろ。」
「兄貴、そう言うけどなぁ。ワイはガキの頃から食うや食わずで生きてきてスリがしみついてしまってる男や。
もう、スリから抜けられん。」
「まだ、そんなこと言うか。」
「けど、ワシ貧しい奴からは盗らんで。金の有り余っとる奴か、こんな金持たしとったら世の中のためになら
んちゅうような奴らからしか盗らん。」
「ほぅ、そうか。ほな聞くけど、今朝うちに来たやろ。」
「ああ、行ったで。行ったけど兄貴おらんかったし、すぐに帰ったわ。兄貴とこの貧乏長屋で仕事したりはせ
えへん。」
「そうか。けど長屋の角の駄菓子屋から一文笛盗ったんはお前と違うんか。」
「ああ、あれか。あれは確かにワイや。」
何故、たかが子供のおもちゃの一文笛を盗ったのか・・・
その理由を秀は兄貴に話し始めます。
-つづく-